朝日ツインズ1「自作小説」


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 いつだか言っていて全然アップしてなかった自作の小説です。
 これからたまに公開していくので、暇があれば、見てもらえたら嬉しいです。

 パソコンの右下に表示されている時計は、そろそろ一時を示そうとしていた。夜のではなく、昼のだ。
 けど、おそらく今日の夜にも、もう一度一時を示したデジタル時計を目にすることになるだろう。もちろん夜は早めに眠らないと肌に悪いと分かってはいるけど、パソコンをいじっているとそういう正しい判断が妙に揺らいでしまう。
 いけない。明日は月曜なのだし、今日くらいは早めに眠らないと一週間がつらいだろう。
「スミレ、ご飯できたぞ」


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 キッチンの方からミツルの声が聞こえてくる。
 私は後でまた使うからとパソコンを閉じて、居間に向かった。
 テーブルには二人分のランチマットが敷かれている。私は冷蔵庫からめんつゆとわさびを取り出して左手の指で挟み、さらにネギの入ったタッパーを右手に持ってテーブルへと向かった。
 少しして、ミツルがキッチンの方から出てくる。その両手には大きめ器と、その上に乗ったざるが抱えられている。テーブルの真ん中にどかんと置かれたそれは、ざるそばだ。
 休日の昼に作るメニューとしてはもっとも簡素な部類に入る。だって、ゆでるだけだもの。
 ミツルがわたわたしている間に、私はテレビのそばに投げ捨てられていたリモコンを取ってテーブルに着いた。
 リモコンをテレビに向け、電源を入れる。数秒間の無音の後、賑やかしいバラエティ番組の映像が映り、キャストたちの声が聞こえてくる。
 私は大学生だけど、こうしてよくテレビを見ている。
 バラエティやドラマの話題になったらとりあえずは話について行ける程度の情報は得ているけど、いかんせん周りのみんなはすでにあまりテレビを見なくなっている。
 単純に番組に興味がなかったり、そもそもテレビ自体を持っていない人も多い。
 だからこうしてテレビを見ていても、それに関して大学の友達と話を弾ませることはまずないだろうと思う。
 でもこうして見ているのは、きっと私がテレビ好きだからなんだろう。
 ……それに、テレビ番組を見ている分には適当なバラエティを映しておけば間が持つから。
 向かいに座ったミツルも、にぎやかしい声につられて視線をテレビに移した。
 私はどうもインドア派で、それこそ暇があると、いや、潰しちゃいけない時間だったとしてもユーチューブの動画なんかを見て時間を消費してしまう。大学に入ってからはニコニコ動画も見始めたから、余計に時間を取られているのを自覚している。
 そういう趣味を持っているから、テレビがなかったら食事中もどこかの誰かのゲーム実況とかを見て過ごしてしまう気がする。
 対してミツルはアウトドア派ってわけでもないけど、特段実況動画を見たりするほどにゲームとか動画とかに興味があるわけではない。話を振れば乗ってくれるような気はするけど、そうでもしなければ私の見ているものにわざわざ注意を向けてくることはないだろう。
 二人きりの食事で、私一人だけが自分の世界に入るのはなんだか居心地が悪い。
 アニメを流しておけば二人でも楽しめるけど、それはそれで、私はそういうのは一人で静かに楽しみたいから嫌だ。
 だからこうしてテレビを見ている。
「いただきます」
 私がとりあえず手を合わせると、ミツルも「いただきます」と追従した。
 ご飯を食べるときを含めて、なぜか大抵の主導権は私にある。
 いや、なぜか、ではないか。
 それは私が姉だからだ。一応、だけど。
 私ことスミレと、ミツルは双子の姉弟である。「お姉ちゃんだから」とか、そんなことは親から言われた覚えこそないが、元来の性格からか小さい頃から主導権は私が握っていたような気がする。今なら私が優秀だったとか力が強かったからとか、そういう理由ではなく、単に私がわがままだったからそうなったことは理解している。
 ミツルは私にへりくだったりはしないけれど、とりあえず私に付き従った方が面倒が少ないと考えていることだろう。考えるまでいかなくても、三つ子の魂百までというか、自然とそういう行動をするように育ったのかもしれない。
 まあ、いい。別に弟が大学生になっても姉に反抗の一つ示さないようなへたれであっても、私には関係ない。というか、反抗されたらそれはそれで困る。今更姉弟の関係性を再構築しようなんてしたら、面倒くさいの極みだ。
 だから私はそばを食べる。
 箸でざるから取れるだけの麺をつかみ取り、水で割っためんつゆに一瞬だけ通してずるずるずるってすする。さっぱりした麺と、コク深い出汁の利いためんつゆがマッチし、特上の食べごこちが舌に染みる。
 普通のそばって、おいしい。
「この間のポン酢で食べた時と比べると、めちゃくちゃおいしいな。コレ」
 ミツルも同じ感想を抱いたらしく、私に伝えてきた。
 そうだ。
 先週そばをゆでたときは、ゆであがった後にめんつゆを切らしていたことに気がつき、仕方なく冷蔵庫に常備してあるポン酢をつゆ代わりにしたのだった。
 結果を言うと、味が濃すぎるし酸味は強いし、そんなにおいしいものだとは思えなかった。うどんだったらもしかしたらおいしく食べられたかもしれない。けど、そばには微妙だったと思う。
「誰かさんがめんつゆを買い忘れたせいでね」
「どっちが買うとか決めてなかったし、一緒に行ったときは二人とも忘れてただろ。あと、その時にゆでたのはスミレの方だし」
「あんたも気がついてなかったでしょうに」
 これ以上続くとケンカになってもおかしくないのでお互いに言い返すのは我慢する。まあ、私は我慢しなかったわけだけど。
「確かにおいしいけど、コレ一番安いつゆだったわよね。高いめんつゆとか、味、どう変わるのかしら」
「……たぶん、味の違いなんてよく分からないと思うけど」
「それは分かる」
 二人とも、別に舌の肥えたセレブに生まれ育ったわけではない。鶏肉と牛肉の違いは分かっても、良い鶏肉と安い鶏肉の違いが分かるとは限らない。いや、まあ、良い鶏肉なんて買ったことないけど。
「でも一番高いめんつゆと一番安いめんつゆだったら、少しくらい違いが分かるんじゃないかしら」
「俺はどっちかというと、麺の値段を気にした方が違いが分かると思うんだけどな」
 どうだろう。
 そもそもスーパーに行ってそばのコーナーを見ても、それぞれの値段はそう変わらなかった気がする。違いが分かるとしたら、それはもう素材の良さとかじゃなくて、麺の太さとかそういう部分なんじゃないだろうか。
 逆にめんつゆだと、なかなかにお高そうな瓶に入った、ややお高いめんつゆが売られていることがある。それ瓶の値段なんじゃないの? とは考えないことにしておく。
「うーん」
 ふと、テレビの中の人物が、悩ましげな声を上げているのに気がついた。
 あの番組は芸能人の格付けをする番組で、大御所芸能人や人気タレントが混ざって、プロと素人の盆栽、プロとアマチュアの演奏を見分けたりするものだった。普段は夜にやっているけど、今日はその再放送のようだ。
 現在はスーパーで買える中では良い牛肉のステーキと、高級レストランで出されるステーキが比べられている。スーパーの肉は高いと言っても千円くらいだが、レストランのステーキは桁が違う。一枚で五万円くらいはする。
 現在頭を悩ましているのは芸歴数十年の大御所芸能人だった。どうやら食べ比べても、どちらが本物の高級肉なのか判断が付かなかったらしい。
 答えを選んだ芸能人は二つある部屋のうち、自分が選んだ方の部屋に入って正解が教えられるのを待つ。
 その部屋にはその芸能人以外にも、何人かの芸能人が待機している。その人たちも大御所芸能人と同じ答えを選んだ人たちだ。
 そして正解発表の時間がやってくる。どっちだろう。私たちにはその答えがわからない。実際に食べてもないから、分かるはずもないけれど、どちらの部屋にもそこそこの人数が待機している。
 司会者が開けた方の部屋が、正解だ。みんな、自分のいる部屋が開かれるのを待っている。
 司会者が大御所芸能人のいる部屋を開けた。あの人は正解したのか、と思ったら司会者はその部屋にいる人たちに「ばーか」と言い捨てて扉を閉め、もう一方の扉を開けた。どうやらさっきのはフェイントで正解は反対だったらしい。
「まあ、あれよね」
「うん」
 ミツルも、似たようなことを思っているのかもしれない。
「安い方でも、それで喜べるなら、それも幸せよね」

 
 スーパーで、調味料やらの瓶が並んだ棚を通りがかった。
 そういえば、そろそろめんつゆが切れそうなんだと思い出す。
 値段は色々あるけれど、私にその違いはわからない。もっとも、高い奴は買ったことすらないから分かるはずもないのだけど。
 買ってみようかしら。
 でも、安いもので十分満足できているわけだし、わざわざ高いものを買う必要はない。
 ただ、その値段の差は大きなものじゃない。あっても二百円くらいの差だ。あの番組みたいに、桁が違うような高級品はスーパーには置いていない。
 もちろん買い続けたらその値段の差は大きくなってくるけれど、一度くらいなら買ってみるのも、やぶさかではないだろう。
 ふと、思いついた。いつもの安いものと、高いものを買ってブレンドしてみるのはどうだろう。ミツルはどう思うだろうか。勿体ないと、止めるかもしれない。「やめろぅ!」と慌てるミツルの姿を思い浮かべ、「ふふっ」と笑ってしまった。
 面白い。
 二本の瓶をかごに入れ、私は買い物を続けた。


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