青春ブタ野郎シリーズの第5巻です。
ついにかえでがお留守番卒業を宣言し、外に出るための作戦を実行していくストーリーとなっています。
しかしそこには今まで明かされなかった大きな秘密があり、物語に大きな波を呼ぶ1冊となっていました。
実はこれまで私は1~3巻、4~6巻とごはんも食べずに一日で一気読みしてしまうほどこのシリーズにはまったのですが、この「おるすばん妹」を読み終えた後は今までの4巻があまり面白くない作品に思えてしまうほど、この第5巻からのストーリーには心を揺さぶられました。
……だから正直これまで1巻から感想を書いてきましたが、私の本命はこの巻からなんですよね。
というわけでまず最初に、この第5巻は非常にオススメですということを伝えておきます。
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これまでかえでは、ずっと家に引きこもっていました。それは単純に学校に行きたくないというだけでなく、そもそも外の世界に対する恐怖としてかえでを苦しめました。更に思春期症候群により、かえでは強いストレスを受けるとその心の傷が体の傷となって現れてしまいます。
だから咲太はずっとかえでが家にいることを責めないし、そんなかえでがしあわせに過ごせるようにこれまで努力を惜しみませんでした。
しかしある日、かえでは外に出たいと言います。
もちろん、外に出たくなんかないのに。
外に出て学校に行けるようになりたい、ならなきゃ。
そんな想いがかえでにはありますが、一方で外の世界には怖いものがあふれています。かえではまるで周りから責められているような気分になってしまいます。
それでも外に出ようと思うのは、大好きな兄のため。自分を好きでいてくれた、たった一人の兄のためでした。
そして一方、咲太もかえでのことを大切に思ってきました。
今の町に来たのもそう。ケータイを持たずに過ごしてきたのもそう。
でも咲太はかえでの秘密を知っています。そしていつかかえでとの別れが来ることを、彼は最初から知っていました。
過去の後悔を忘れられないまま、咲太はその分の愛情をかえでに注ぎます。
でもそうすればそうするほど、別れはつらく、悲しく、耐えがたいものになっていきました。
お互いを思い合い、咲太はかえでにたくさんの幸せを与えようと、そしてかえでもそんな兄がもう二度と後悔しないように、外に出て、海を見て、学校を目指し、パンダを見に行きました。
そのどれもがお互いを思い合った結果であり、かけがえのない思い出となりました。
初めから、咲太には行き止まりしか待っていなかったのです。
咲太は妹のことを大事に思っていたから、どう転んでも胸に痛みの残る結末しか用意されていませんでした。大事に思っていたからこそ、絶対に後悔が残るのです。
でも二年前も、そして今も、牧之原翔子さんの存在のおかげで咲太の心は救われました。翔子さんの優しさが、咲太にかえでの優しさを教えてくれたのだと思います。
温かくて、でも胸が張り裂けそうになる。
そんな大きなものをかえでは残してくれました。
今回、咲太は何かを決断したわけではありません。
二つの可能性があって、それは咲太の行動にかかわらずどちらか片方が選ばれました。
それでも、痛いです。胸が痛いです。
だけどその痛みを受け入れて物語は続いていく。人生は続いていく。
「おるすばん妹」を読んでいて私もどうしようもなく悲しくなりましたが、同時にかえでの想いにも強く感動を覚えました。今でも強烈な印象が、胸の内に残っています。小骨が刺さったみたいに突っかかっています。
だってかえではもういないんですもの。
感情移入しちゃってかなりつらくなる1冊でしたが、とても面白かったです。
もう一度強くオススメしておきます。